reportレポート
取材 宝塚すみれ発電 代表取締役 井上保子
地産地消をもっと楽しむ場所へ
市民発! ソーラーシェアリングの里
「すべては安心安全な食と暮らしのため」。一人の勇壮な女性が目指したのは、クリーンエネルギーを生み出す市民発電所。その熱意が伝染し、この町はソーラーシェアリングの里になりつつある。
笑顔あふれる市民農園から、新規就農者の無料農地まで
兵庫県宝塚市の北部、西谷地区。のどかな里山風景が広がるこの地域には、6基のソーラーシェアリングが稼働している。ここ約2年の間に造成されたものだ。その発端には、一人の一般市民の存在があった。非営利型の市民発電所をうたう「株式会社宝塚すみれ発電」の代表取締役、井上保子さんである。
遡ること、約36年前。スリーマイル島原子力発電事故を機に任意団体「原発の危険性を考える宝塚の会」が発足。井上さんはそこで反原発の市民運動に携わるが、2011年、急展開を迎える。東日本大震災と共に恐れていた原発事故が発生、自然エネルギーの普及が急務だとして、「新エネルギーをすすめる宝塚の会」(その後NPO法人化)を立ち上げたのだ。同時に、行政も巻き込みながら奮闘する日々が始まる。2013年には、太陽光発電システムを活用し、市民が出資してDIYで作る「市民発電所第1号」を稼働。また、非営利という志はそのままに「株式会社宝塚すみれ発電」として法人化も実現した。その後もおよそ1年間隔で第2号、第3号の市民発電所を完成させ、2016年4月には、第4号として待望のソーラーシェアリングを稼働させた。「農業も地域も活性化できると注目していました。多くの人に農業とエネルギーに興味を持って欲しいと思って、市民農園という形にしようと決めました」。
市民農園は全部で36区画。約900㎡の畑に3mの高さで架台を組み、汎用タイプの太陽光パネルを180枚設置。台風の影響も考え、仰角はフラットに、4本の柱を支える杭は地中1.4mまで打ち込んだ。行政の指導により、収穫量の管理上、品目を統一する必要があり、農作物は多くの人が好むサツマイモをセレクト。2年目の今年度も生育は順調だという。
残る5基のソーラーシェアリングは、西谷地区の農家がそれぞれ自己資金で設置・運営している。
「西谷ソーラーシェアリング協会」の共同代表で、市民農園のオーナーでもある古家義高さんは、井上さんに誘われて2015年8月よりソーラーシェアリングをスタート。売電収入を得ながら、ソーラーパネルの下の農地は新規就農者に無料で貸し出しているという。「設置には営農の継続が条件。農作業がツラい高齢者は、新規就農を目指す若者に提供すれば、まさにWin-Winです。仲間を増やして、西谷地区をソーラーシェアリングの里にしたい」と意気込む。また、新規就農者が作る有機野菜は「みずみずしく、味が濃い」と評判だそうで、大手百貨店などとも取引されているという。