reportレポート
取材
地域課題の解決からコミュニティの再生へソラシェアから始まった新しい村づくり
ソーラーシェアリングによって、耕作放棄地を農地として再生した匝瑳。
その取り組みは、さらに広がり、いま新しい村づくりが始まろうとしている。
地域内20ヵ所・合計2MWのソーラーシェアリング先進地
018年11月18日、「匝瑳メガソーラーシェアリング第一発電所」で2回目の収穫祭が開催された。農業関係者やソーラーシェアリング関係者はもちろん、近隣のファミリー層も多数訪れ、去年にも増して賑やかな1日となった。
ここは、2017年3月に完成した設備容量1MWの大規模ソーラーシェアリング発電所。15年以上にわたって耕作放棄地だった場所に作られたもので、ソーラーシェアリングによる農地再生の成功事例としても知られている(「EARTH JOURNAL」vol.5参照)。2年目も半ばを過ぎ、すっかり地域に溶け込み、いまや人々を匝瑳市に呼び込む名物施設ともなっている。
現在、匝瑳市飯塚地域には、このメガソーラーの他にも約20ヵ所のソーラーシェアリング発電所があり、合計設備容量は2MWにも達している。はじまりは、市民エネルギーちば合同会社が2014年に作った日本初の市民出資型ソーラーシェアリング「匝瑳第一市民発電所」だ。これが呼び水となってソーラーシェアリングに取り組む人々が増え、今日では地域の農業になくてはならない存在として認知されるに至っている。匝瑳メガソーラーシェアリングも市民エネルギーちばを母体とする合同会社が運営するもので、成功の背景に、2014年から続く地域との信頼関係が息づいていることは間違いない。
発電所の売電収益を基金に村つくり協議会が発足
この地域には、年間1500人以上の視察者・見学者が国内外から訪れる。その理由は、単にソーラーシェアリングの数が多く、規模の大きい設備があるからというだけではない。ソーラーシェアリングによって、実際に荒廃農地を再生し、地域活性化への取り組みが着実に実りつつあるからに他ならない。
2018年3月には、ソーラーシェアリングの売電収益を基金とする「豊和村つくり協議会」が発足した。市民エネルギーちばをはじめとする地域内の発電事業者が協賛金を出し合い、これを基金として、地域課題の解決に取り組んでいこうとするものだ。協議会のメンバーには、自治会や環境保全会、農業法人、小学校のPTA、環境NPO、発電事業者など幅広い顔ぶれが並ぶ。
協議会の名称にある豊和村とは、飯塚地域と近隣地域を含むかつての村名。この協議会名には、ソーラーシェアリングという新しいツールを活かして、自分たちの力でコミュニティを再生していこうという強い意志が込められている。
代々続く農家で、ソーラーシェアリング導入の立役者でもある豊和村つくり協議会事務局の椿茂雄さんは話す。「私たちは、耕作放棄地を解消したいという想いからソーラーシェアリングを始めました。豊和村つくり協議会は、その延長線上にあります。耕作放棄地の解消はもちろん、環境保全や新規営農支援、子供たちの育成など、地域振興のためにやるべきことは多岐にわたります。小規模なソーラーシェアリングだけでは難しかった取り組みも、昨年できたメガソーラーシェアリング発電所の売電収益を活かすことで可能性が見えてきました」。
既に協議会では、地域の悩みの種だった不法投棄されたゴミの処分を実施したほか、小学校へのパソコン用モニターの寄贈などを行っている。夏には、「豊和でホタルを愛でる会」に協賛し、都会から来た人々と地元住民との触れ合いにも一役買った。再来年の基金は500万円を超えるとのことで、どんな形で活かされるのか注目される。
ソーラーシェアリングから生まれた「豊和村つくり協議会」
地元住民と移住者が協調して活力あるコミュニティを実現
民エネルギーちばでは、豊和村つくり協議会や関連団体と連携して、コミュニティ再生に向けた多様な取り組みを進めている。中でも力を入れていることの一つが、農村と都市住民が繋がるきっかけを作ることだ。
その一環として昨冬実施したのが、小屋作りワークショップ。田舎暮らしや農業に関心をもつ都会からの参加者が、地元住民の協力のもと、宿泊施設となる小屋を自分たちで作った。この地域で10年近く、レンタル農地「My田んぼ」という試みを続けてきたNPO匝瑳プロジェクトとの連携によるものだ。
同NPOでは、都会からの移住支援も行ってきたが、移住者にとっては生活の糧となる仕事を見つけることが長年の課題だった。そんな状況にあって、ソーラーシェアリングは新たな雇用を生み出し、移住者の受け皿としても機能し始めているという。
昔からの地元住人と都会からの移住者が協調して、活力に満ちた新しいコミュニティが生まれようとしているのだ。
味噌やクッキー、飲料など地域の施設と連携して加工販売
ソーラーシェアリングで作った農作物の販売に関しても、新しい試みが始まっている。地域の施設と協力して、お菓子や豆腐、飲料など加工品にして売っていこうというものだ。
太陽光パネル下での営農を請け負っている農業生産法人Three little birds合同会社の共同代表、齊藤超さんはいう。「去年収穫して仕込んでいた大豆が、この秋、味噌になりました。今年は、千葉県内の福祉事業所と一緒に、クッキーやお茶などの商品開発を行っています。また、小規模な豆腐屋さんやパン屋さんにも働きかけて、ソーラーシェアリングでできた食品を広めたいと思っています」。
Three little birdsは、有機農業にこだわる若手農家が中心となって設立した農業生産法人。「有機ソーラーシェアリング食品」という、これまでにない付加価値をもつブランドが立ち上げられる日も、そう遠くはなさそうだ。市民エネルギーちばや匝瑳プロジェクトとの連携のもと、2018年10月には、農作物の6次産業化や農村民泊などを手掛ける別会社Reも設立された。この先、匝瑳から何が生み出されることになるのか、興味は尽きない。
それぞれが有機的に連携して地域再生を実現
ソーラーシェアリング電力を販売する新電力事業構想も
「ここでの取り組みをオープンソース化して、各地に広めていくことで、自然エネルギーへの流れを加速していきたい。各地の成功体験を皆で共有することができれば、様々な地域課題を解決する新しいアイデアも生まれてくると信じています」と市民エネルギーちば代表の東光弘さんは話す。
さらに、具体的な計画として、「5年以内に、この地域のソーラーシェアリング発電所を合計5MWまで広げたいと思っています。そして、ソーラーシェアリングで作った電気を販売する電力小売り会社を立ち上げるつもりです」と明かしてくれた。5MW規模にすることで、採算のとれる電力供給量を確保し、地域へのさらなる利益還元を図っていくという。
新規発電設備も、もちろん耕作放棄地を中心に設置される。「ソーラーシェアリングによって農地を生き返らせ、眠っていた地域資源の価値を高め、その価値を皆でシェアする仕組みを作る。それこそが、私たちのミッションです」と東さん。その目線の先には、人と自然が調和した、美しい、心豊かな暮らしがある。
photo: Kazunobu Kataoka
text: Kiminori Hiromachi
出典:EARTH JOURNAL(アースジャーナル)vol.06 2018年
販売サイト(https://earthjournal.jp/information/33791/)