reportレポート
取材
地域の農業活性モデルを作るため続ける「よそ者」のソーラーシェアリング
耕作放棄地の問題を解決するために農業経験ゼロの市民が立ち上がった。持続可能な地域循環のモデルを確立させて広めるため、地域の応援と理解を集めながら、小田原の地で活動を続けている。
地域の課題解決の手法をひとつずつ作っていく
小田原郊外にある曽我山のみかん畑は、いま収穫最盛期を迎えている。畑いっぱいに柑橘の香りが広がり、目の前には富士山の眺望と小田原の町並み、町中央を流れる酒匂川、そして相模湾が広がる。「かなごてファーム」のプロジェクトは、すべてここから始まった。
かつてオレンジ色と緑色で一面埋め尽くされた曽我山は、伊豆に向かう列車の車窓から人々の心を和ませた。望郷の童謡「みかんの花咲く丘」が生まれた地でもある。高齢化と担い手不足により荒れ始めた山を昔の風景に取り戻したい、160haもの小田原の耕作放棄地をなんとかしたいと立ち上がったのが、小山田さんだった。
「僕は地元の人間ではありませんが、100年先、自分の子供たちとずっと先の孫世代まで、この豊かな田園風景を残したい。そのために何かできないかと、まずは一口2000円の出資で仲間を募りながら、みかん畑の保全を行いました」(小山田さん)。
人手不足に困っていた地権者から1反7畝のみかん畑を借り受けて生産・販売を始めたのを皮切りに、次に手がけたのがさつまいも栽培でのソーラーシェアリング。地元梅農家の川久保和美さんの休耕地に15・12kWの設備を設置し、想定の約1・5倍の年間発電量60万円の売電に成功した。
活動に賛同する仲間は県外各地にも広がり、2号機の設置も実現。パネル下では酒米となる稲が栽培された。水田のソーラーシェアリングでは県下初事例、県下最大規模。年間売電収入見込、約150万円。約0・4haの耕作放棄地が田んぼの耕作地として生まれ変わった。6月の田植えイベントでは地元や県外からの大勢の家族連れで賑わい、秋、いよいよ収穫を迎えようとしたその矢先、事件は起こった。大雨と強風で各地に甚大な被害をもたらした台風24号でパネル支柱が倒壊したのだ。そのショックに落ち込む小山田さんを励ましたのは地元の人々だった。
「地域の人たちが大勢、駆けつけてくれました。よそ者である僕の取り組みを理解してくれて、こんなに応援してくれる人たちがいる。だからこそ、絶対に諦めないと心に誓ったんです」。
小山田さんは仲間たちと懸命な原因究明に当たり、スクリュー杭のフランジと支柱の接合部の金具であるL字溝の強度不足と突き止めた。この失敗を教訓として広く生かしてもらうため、小山田さんはあえてブログでその失敗の情報を公開した。それがいま多くの人々にシェアされ拡散されている。
「この11月には、自然エネルギー100%を供給し、電気から地域社会の課題解決を目指す電力会社『あしがら金太郎電力』を設立しました。こうした地域の課題解決の手法が、他の地域へも広がってほしい。そして僕の活動事例が少しでも役に立てば、嬉しいですね」。
そう前を向いて語る小山田さんはいま、2号機の再建に向けて奮闘中だ。
小田原かなごてファーム 1号機
場所 | 神奈川県小田原市 |
設備容量 | 15.12kW |
土地面積 | 330㎡ |
導入年月日 | 2016年11月 |
導入費用 | 400万円(接続負担金70万円) |
年間の売電収入 | 60万円 |
パネルの下で育てている作目 | サツマイモ |
photo: Nahoko Suzuki
text: Mikako Wakiya
出典:EARTH JOURNAL(アースジャーナル)vol.06 2018年
販売サイト(https://earthjournal.jp/information/33791/)