reportレポート
対談
日本には、ソーラーシェアリングが必要か?
元内閣総理大臣 城南総合研究所名誉所長 小泉純一郎 × ジャーナリスト メディア・アクティビスト 津田大介
脱原発を訴える小泉純一郎元首相は、ソーラーシェアリングが日本のエネルギー政策でどんな役割を果たすと考えるのか。
ジャーナリストの津田大介氏が、その答えを引き出す。
農業のさらなる可能性を、太陽光発電が導きだす
津田 今回は「ソーラーシェアリング」について小泉純一郎元首相にお話を伺いたいと思います。この仕組みを普及させるためには、何が必要だと思いますか。
小泉 これは政治家の習性ですが、地元の町内会、老人クラブ、婦人部といった方たちを対象にしてどう話すかを、まず考えます。こうした方々にはカタカナ言葉が通じない。「ソーラーシェアリング」という名前には、そうした視点が無いのが残念ですね。
津田 たしかに普及させるためには名前も大事ですよね。
小泉 本当にそう。私が厚生大臣(当時)になった時も「カタカナ言葉が多すぎる。どうして日本語にしないのか」と職員に訴えていた。高齢者の対策を考えないといけないのに、分かりにくいヨコモジばかりだったよ。
津田 コンセプトには大賛成だけど呼び方に課題がある、ということですね。「ソーラーシェアリング」は農地限定でのシステムではなく、太陽光をシェアしたい場所に設置されることを想定したシステムです。農業で活用する場合は、「太陽光農業」ぐらいシンプルな方がいいのかもしれませんね。ところで、小泉さんは「農業を良くするために太陽光発電を使うという発想が良い」とおっしゃっています。政治家として農業についてはどうお考えですか。
小泉 農業は一番大事だよ。食べ物がなければ生きていけないんだから。「サプリメントを取ればいい」という人もいますが、それはとんでもないこと。食べ物が人間を作るんだから。
津田 それほど重要な農業が厳しい環境になる中で、あえて田畑の上に太陽光発電所を作れば、作物もよく育つし、農家も安定した収入を得られるという発想を聞いた時は、正直私も驚きました。
小泉 ソーラーシェアリングは実に良い発想なんだよ。少し日陰ができた方が農作物はよく育つこともある。簡単に導入できるし、設備費も安上がり。これが普及すれば、自然や農業がいかに大事か分かるようになるし、子供たちも直接体験できるようになる。
「核のコントロール」は
人間にはできない。
津田 小泉さんは福島第一原発事故の後、フィンランドにある世界唯一の高レベル放射性廃棄物の最終処分場「オンカロ」を訪れています。私も昨年行きましたが、価値観が変わるくらい衝撃的でした。小泉さんは、そこから人間が核をコントロールするのは無理で、脱原発が必要と判断されたわけですが、それと自然エネを盛り上げることをセットでやるべきだとお考えでしょうか。
小泉 当然、原発をゼロにすることと、自然エネをどう活用していくのかを考えるのは同じこと。人間が生きていくには自然環境が大事なんです。原発は、平時でも海洋汚染などで自然を破壊してしまっている。しかも、いまだに福島第一原発では汚染水をコントロールできていない。
津田 原発推進派の人は、核燃料サイクル技術があるから大丈夫って言っていますけどね。
小泉 「永遠のエネルギー」「夢の原子力」と言われて、1985年に高速増殖炉のもんじゅができた。でも、すぐに故障した。これは全部税金で1兆1000億円がパーです。すでに核燃料サイクルは破たんしているんだよ。
津田 原発の議論では「経済的な理由などもあって日本は脱原発は難しい」という推進派もいますが、小泉さんは「日本の官僚は優秀だから、やると決めればそのための方策を全力で考える」と言っておられて、説得力がありました。
小泉 2011年3月の東日本大震災から原発推進の理論がおかしいんじゃないかと思い、勉強しだした。それで全部ウソだと分かり、「過ちて改めざる、是を過ちという」の言葉を胸に脱原発を目指すことにしたんだ。原発推進派は当時、「自然エネは全電源の2%しかない」とバカにしていた。でも、今や太陽光だけで原発数十基分の電気を賄える。実際、2015年9月までは原発ゼロ、そしていま(2017年9月)は5基の再稼働が認められたが、それこそ「全電源の2%」あるかないかだから、原発がなくても大丈夫だと証明されています。